短期集中講座 ロシア文字(キリル文字@ロシア) 第一回
キリル文字とは?
キリル文字とは、主にスラヴ系言語及びキリル文字を使う国の影響下にあった言語で用いられているアルファベットである。
キリル文字は、その昔正教会の偉い人(聖キュリロス。ロシア語名キリル)がスラヴ語(古代教会スラヴ語=古代ブルガリア語)で聖書を書くために作ったグラゴール文字(非常に独特の外見を持つ)を、その偉い人の弟子が外見だけギリシャ文字に準じたものに改良してできたと思われる*2。
以上のような特徴を持つこの文字は、スラヴ語(ブルガリア語、ロシア語等)を記述するのに優れた文字であり、またギリシャ文字の知識があるとかなり容易に覚えられる文字である。英語等で用いるラテン文字の知識も、キリル文字を覚えるのにある程度役立つ。
キリル文字はラテン文字と同程度の難易度の文字である。ラテン文字を難しいと思わないのであればキリル文字も難しくはないはずである。とりあえずラテン文字を覚えるのに費やした時間の数割の時間をキリル文字を覚えるために使ってみよう。
ロシア文字とは?
ここでは、ロシア語で使われるキリル文字を「ロシア文字」と呼ぶ。「ロシア文字」という名称を用いるのは、他のキリル文字を用いる言語の文字には触れない、ということを明確にするためである。「ロシア文字」という表現は何かと批判されやすいので、通常は「キリル文字」という名称を用いることが望ましい。
現代のロシア文字は全部で33文字ある。母音が10個、子音が21個、その他(記号)が2個である。
文字の紹介
ロシア文字の最初の11文字を紹介する。
例の発音に伸ばす「ー」が出てくる場合、そこにアクセントがあることを示す。
А, а (アー/a)
- ア([a])の音を表す。
- アクセントのある時は強く、やや長めに「アー」と発音する。
- アクセントのない時は弱い「ア」である。場合によってはあいまいな「イ」に近い発音になる。
<例>
- а(ア):「そして」「一方で」
Б, б (ベー/be)
- ブ([b])の音を表す。
- 語尾、無声子音の前では無声子音のプ([p])になる。
<例>
- б(プ):(仮定法の助詞)
В, в (ヴェー/ve)
- ヴ([v])の音を表す。
- 語尾、無声子音の前では無声子音のフ([f])になる。
<例>
- в(フ):「〜で」「〜へ」(前置詞)
Г, г (ゲー/ge)
- グ([g])の音を表す。
- 語尾、無声子音の前では無声子音のク([k])になる。
- 形容詞の一部語尾及びそれに由来する単語ではヴ([v])になる。
- ごく一部の単語では喉の奥から出すフ([x])になる。
<例>
- гав(ガーフ):(擬音語。犬の吠え声)
Д, д (デー/de)
- ドゥ([d])の音を表す。
- 語尾、無声子音の前では無声子音のトゥ([t])になる。
- 書体によっては大文字は「D」、小文字は「g」に近い形になる。
<例>
- да (ダー):「はい」「Yes」
- ад (アート):「地獄」
Е, е (イェー/je)
- イェ([je])の音を表す。
- アクセントのある場合は強く、やや長めに「イェー」と発音する。
- アクセントの無い場合は弱い「イェ」である。場合によってはあいまいな「イ」や「ヤ」に近い音になる。
- 直前の子音を「軟音化」する。「軟音化」とは、子音に「イ」っぽい音が加わることである。例えば「де」は「ヂェ」(「ディェ」と発音するような口で「ヂェ」と発音)になり、「ディェ」とは違う発音になる。
- 外来語では子音の後でしばしばエ([e])になる。この場合、直前の子音は軟音化されない。
<例>
- где(グヂェー):「どこ」(疑問詞)
- едва(イェドヴァー):「わずかに」「やっと」(副詞)
Ё(Е), ё(е) (ヨー/[jo])
- ヨ([jo])の音を表す。
- 常にアクセントがあり、強くやや長めに「ヨー」と発音する。
- 上の点々は省略されることが少なくない。
- 辞書の並びではЕと同じ文字として扱われる。
- 外来語ではしばしばアクセントが無い場合がある。
<例>
- её(イヨー):「彼女の」
Ж, ж (ジェー/[ʒe])
- 舌を口の中のどこにもつけないで発音するジュ([ʒ])の音を表す。英語のpleasureのsの音が近い。
- 語尾、無声子音の前では無声子音のシュ([ʃ])になる。
- 「軟音化」しない。
<例>
- ёж(ヨーシュ):「ハリネズミ」
З, з (ゼー/[ze])
- 舌を口の中のどこにもつけないで発音するズ([z])の音を表す。
- 語尾、無声子音の前では無声子音のス([s])になる。
<例>
- за(ザ):「〜の向こうへ」「〜のために」(前置詞)
И, и (イー/[i])
- イ([i])の音を表す。
- 直前の子音を「軟音化」する。「軟音化」とは、子音に「イ」っぽい音が加わることである。例えば「ди」は「ヂ」(「ディ」と発音するような口で「ヂ」と発音)になり、「ディ」とは違う発音になる。
- アクセントのある場合は強く、やや長めに「イー」と発音する。
- アクセントの無い場合は弱い「イ」である。
- 書体によっては「u」に近い形になる。
<例>
- иди(イヂー):「行け!」
練習問題
次の単語を発音せよ。なお、アクセントは通常はアクセントのある母音の上にアキュート・アクセント ( ´ )をつけて表すが、ウェブ上では困難なため代わりに赤い太文字で表す。
1. бег
2. база
3. газ
4. избегай
5. два
6. даже
7. дед
8. езда
9. жажда
10. заезд
回答は次回。