交響詩 藤原京


第一楽章 藤原の宮の役に立てる民の作れる歌

やすみしし わが大君(おほきみ)
高照らす 日の皇子(みこ)
荒栲(あらたへ)の 藤原が上に
食(を)す國を 見(め)したまはむと
みあらかは 高知らさむと
神(かむ)ながら 思ほすなへに
天地(あめつち)も 寄りてあれこそ
石走(いはばし)る 近江の國の
衣手(ころもで)の 田上山(たなかみやま)の
真木(まき)さく 桧(ひ)のつまでを
もののふの 八十(やそ)宇治川
玉藻なす 浮かべ流せれ
其(そ)を取ると さわく御民(みたみ)も
家忘れ 身もたな知らず
鴨(かも)じもの 水に浮き居て
我(わ)が作る 日の御門に
知らぬ國 寄(よ)し巨勢道(こせぢ)より
我が國は 常世にならむ
図(あや)負へる くすしき龜も
新代(あらたよ)と 泉の川に
持ち越せる 真木のつまでを
百(もも)足らず 筏に作り
泝(のぼ)すらむ いそはく見れば
神(かむ)ながらにあらし

第二楽章 明日香の宮より藤原の宮に遷居(うつ)り給ひし時、志貴の皇子の作りませる御歌

采女(うねめ)の袖 吹きかへす
明日香風(あすかかぜ) 都(みやこ)を遠(とほ)み
いたづらに吹く

第三楽章 藤原の宮の御井の歌

やすみしし 我(わ)ご大君(おほきみ)
高照らす 日の皇子
荒栲(あらたへ)の 藤井が原に
大御門 始めたまひて
埴安(はにやす)の 堤(つつみ)の上に
あり立たし 見(め)したまへば
大和の 青香具山は
日の經(たて)の 大御門に
春山と 茂(し)みさび立てり
畝傍(うねび)の この瑞山(みづやま)は
日の緯(よこ)の 大御門に
瑞山(みづやま)と 山さびいます
耳成(みみなし)の 青菅山(あをすがやま)は
背面(そとも)の 大御門に
よろしなへ 神(かむ)さび立てり
名ぐはし 吉野の山は
かげともの 大御門ゆ
雲居(くもゐ)にぞ 遠くありける
高知るや 天(あめ)の御蔭(みかげ)
天(あめ)知るや 日の御蔭の
水こそば とこしへにあらめ
御井のま清水

(第三楽章 コーダ)

藤原の 大宮仕へ
生(あ)れ付くや 娘子(をとめ)がともは
羨(とも)しきろかも