無題(Eへ告ぐ)

奴を恨んでいる。
奴を見返してやりたい。
私を焦らせ、苛立たせているのは奴の存在。


奴は十代で彼氏持ち。
私は二十代後半で独り者。
奴は苦しい時は誰かにすがれば良い。
私は苦しい時も理性を保つよう注意せねばならぬ。


奴は喜怒哀楽の中を生きている。
時に喜び、時に悲しみ、歩んでいる。
私は酒に溺れむせび泣くのみ。
無益な悲痛以外に何がある?


奴にとって私などどうでも良い。
奴が私を捨ててから一年以上。
私は未だ奴の呪縛を逃れられない。
結局私は一人で勝手に奴の掌に上り、
一人で勝手にタコ踊りをしているだけ。


奴は歩みつづけ、私は奴の掌で一人勝手に堕落している。
奴と奴の掌は常に先へと進み、掌の上は奈落へところげ落ちる。


奴に何の魅力がある?
低俗な凡人め!
貴様のかかえているものなど、
貴様にとっては所詮繻より軽いもの。
せいぜい醜悪な現世を楽しむが良い!


貴様の歩んでいるその醜悪な道を、
貴様がその道の存在さえ忘れた頃に、
堕落しきった私は歩み始めるだろう。


結局は奴の勝ち。
私は初め、奴より多くのものを持っていた。
奴より多くのことを知っていた。
結局それは何だったのだ?
私が奴から得たものは嫉妬と羨望のみ。
その嫉妬と羨望が私を食い潰している。
それが奴が私に残した全て。
結局は奴の勝ち。
所詮は奴の勝ち。
私の前に続くのは奴の消えかけの足跡のみ。